納豆の糸について

最終更新日 平成21年12月17日

 納豆の糸は、生の納豆の0.1〜0.8%ほど含まれますが、何できて
いるかと言いますと、以下の2つが混ざってできています。
 
 1.グルタミン酸がチェーンみたいに何個も繋がった、高分子のポリペ
  プチドと呼ばれるもの、ポリグルタミン酸(PGA)。
 
 2.フラクトース(果糖)が繋がった、フラクタンと呼ばれる多糖類。
  果糖というぐらいですから、果実に多く含まれるもので甘いものです。
  が、繋がったフラクタンは甘くありません。
  「果糖ちゃん、ペッ」
 
 さて、それぞれの役目ですが、1がネバネバの本体で、2がネバネバの安
定性を保ちます。当然、舌で感じる美味しさは1が担います。
 では、この1と2がそれくらいの割合で混ざっているかといいますと、い
つも一定ではないのですが、だいたい(ザックリといいます)1が55%、
2が45%で、熟成がすすむにつれて1の割合が増え、2が減少していきま
す。
 また、1と2はどちらとD型(D体)とよばれる変わったアミノ酸または
糖が含まれます。
 L型、D型は何のことを言っているかといいますと、アミノ酸の立体構造
のことです。
 1つのアミノ酸には、鏡に映ったような鏡像関係にある立体構造がありま
して、これを光学異性体と言いますが、それがL型とD型です。
 ここで、
 
 「えっ、血液ガッタ型?、グハッ、グハッ」
 
と言った方は立派なオヤジギャグの使い手です。今後、ご一緒に精進しま
しょう。
 当然、1のグルタミン酸ナトリウムにもD型とL型がありまして、それぞ
れL−グルタミン酸ナトリウム、D−グルタミン酸ナトリウムと表記されま
す。
 このL型とD型の大きな違いは、人間の舌が旨みを感じるか否かにありま
す。皆さんがよくご存じの「味の素」などの旨み調味料はL−グルタミン酸
ナトリウムです。
 旨みのないD型は主に医療、農薬、食品合成料として使われます(ちなみに
普通の酵素ではなかなか分解されません)。
 自然界に存在するもののほとんどはL型で、納豆菌の胞子のなかやネバネバ
には、珍しくD型が含まれます。
 
 また、納豆の発酵にしたがって糸が増えるメカニズムですが、キーとなる
のが、「ComXフェロモン」と呼ばれる信号物質(ペプチドフェロモン)
です。
 フェ、フェロモン・・・と過剰反応したオトーサン、お気をつけ下さい。
 納豆菌(Bacillus natto)が増えると、納豆菌が「ComXフェロモン」
を分泌し、濃度が高まります。
 「ComXフェロモン」は、まわりの納豆菌に自分たちがどれだけいっぱい
いるのか(密集度)を知らせ、納豆菌の表面にある「ComP」遺伝子が
センサーとなって、「ComXフェロモン」の量を感知します。
 
 つまり、「ComXフェロモン」で、
 
 「おーい、俺もここにいるっぺよー」
 
とコミュニケーションをとっているわけです。
 そして、密集度が一定以上の量になったとき、納豆菌の細胞膜の受容体に
結合して、ポリグルタミン酸(PGA)を作る反応を促すという仕組みになっ
ています。
 
*「ComP」遺伝子がポリグルタミン酸(PGA)の生産を制御
 
 また、買ってきた納豆を長く置いておくと、糸を引きにくくなります。
 これは、納豆菌が増えて過密状態になってきたことで、糸の成分であるポリ
グルタミン酸(PGA)をグルタミン酸に分解する酵素も作るようになった
ためで、納豆菌も生きるため、グルタミン酸を栄養として再利用する
 (糸は納豆菌の保存食)わけです。

参考:「納豆菌による粘物質の生成に関する研究」、『日本農芸化学会』誌
     昭和38年 福岡女子大学家政学科 藤井久雄
   「納豆菌γ-グルタミルトランスペプチダーゼによる
                     ポリグルタミン酸の分解」、
     平成13年3月24日『2001年度日本農芸化学会』、
     独立行政法人 食品総合研究所 稲津康弘、木村啓太郎、
               Lam-Son Phan Tran、宮間浩一、伊藤義文


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