明日に架ける橋

〜アルゼンチンに納豆製造技術を伝える〜

 最終更新日 平成13年9月24日

 現在、アルゼンチンにおいて日本食が健康食品、ダイエット食品と
してブームになっているそうで、そんななかアルゼンチンにお住いの
日本人主婦Sさんが納豆製造技術を修得し、納豆をアルゼンチンで普
及させたいということで、国際協力事業団(JICA )さんを通して納豆
学会に製造技術研修の依頼がありました。
 
 僭越ながら、納豆を世界に広めるのも納豆学会の役目だと私は思っ
ておりますので、全面的にご協力することとしました。
 
 研修日程は、
 
 7月12日      来日
 7月13日      机上研修 JICA海外移住センター
 7月16日〜8月9日 実技研修 奥野食品さん
 
となっております。
 
 アルゼンチンで納豆を普及させようという素晴らしい志をもった研
修生を、最後までしっかりとサポートできるよう私も努力したいと思
います。
 

机上研修


かなりハードに行いました。

 
 平成13年7月13日(金曜日)、神奈川県横浜市にあります国際
協力事業団海外移住センターにて、納豆技術研修生Sさんへの机上研
修を実施しました。
 机上研修は、私の方で専用にテキスト(A4 13枚)を作成し、
約5時間をかけ、以下の内容で行いました。

 
 1.納豆の歴史([豆支]、塩辛納豆、糸引納豆)
 2.納豆に含まれる栄養
 3.納豆の製造方法と各メーカさんが工夫していること
 4.納豆の食べ比べ
 
 1の歴史につきましては、最近の調査によって分かったことも盛り
込み、「分かっていること」「分かっていないこと」を区別し、
「分かっていないこと」に対しては私見も列記させて頂きました。
(例:『新猿楽記』における「納豆」の文字が表すもの、淡[豆支]と
塩[豆支]の関係)
 2につきましては、最近話題のビタミンK2(オステオカルシン)
からはいり、セレンなどマイナー?な成分まで一通りご説明しました。
 今回の研修のメインである3につきましては、私がいままで見学さ
せて頂いた工場で、各メーカさんが実施されていた製造に関する工夫
(水、大豆、工程、室)を横断的にそのメリットとともにご紹介しま
した。
 密度高くハードな机上研修の最後は、食べ比べで舌の研修です。
 食べ比べにあたっては標準的な納豆を決めておき、そこから何が違
うのか理解していく、という手法をとり、タカノフーズさんの「極小
粒」を標準として、以下の納豆を食べ比べしました。

 
 ・杉本商店さん 「水戸納豆」 (茨城県)
 ・下仁田納豆さん「ふるさと」 (群馬県)
 ・篠原商店さん 「うめー納豆」(山形県)
 ・高橋商店さん 「鶴の子」  (新潟県)
 ・山ノ下納豆さん「粒自慢」  (新潟県)

 

 
実技研修


奥野専務殿に講師となって頂きました。

 実技研修は、三重県松阪市にあります奥野食品さんにご協力頂くこ
とになりました。
 7月16日〜8月9日までの間、タイムシフトありの8:30出勤
の勤務で製造に関わって頂きます。


研修報告

*改行位置のみ変更していますが、原文のままです。

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7月16日(月)
 
研修内容
 ・午前九時奥野食品着、事務室に於いて専務に挨拶。
 ・三井田さん、JAICAの山下さんを交えて研修の方向、内容等を打ち合わせる。
  17日午前8時半より、「工場長付」ということで研修実務に入ることになる。
 ・工場内を見学させていただき、従業員の方達に紹介していただく。
 
所感
  三井田さんにホテルの変更が伝わっていなかったようで前日の話し合いはなし
 に、直接奥野食品に行ったが、これはJAICAからの連絡ミスだと思う。
  見学はすぐに終わったが、専務も、工場長もお人柄がとても暖かそうで、ホッ
 とする。
  祭日、土曜日の休日はなし、ということにちょっと驚くが、食品関係の仕事は、
 そういうものらしい。
  1日でも多く研修が出来ると言うこと気持ちを切り換えて感謝して働こうと思う。
  小さな工場を希望したが、それでも私にとっては、機械化されすぎている。
 
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7月17日(火)
 
研修内容
 ・容器の入った大きなダンボール箱を2個ずつエレベーターで2階に上げる仕事
  を手伝う。
 ・丸カップに詰まった納豆を小さなナイロン紙で覆い、からし、しょうゆの小袋
  を入れ、1カゴに30個ずつ並べる。しっかりやわらかくナイロンを置くのに
  もコツが要る。
 ・本物の藁に納豆を包む作業を2種類手伝う。
 ・挽き割り納豆の流れ作業を手伝う。規定量を超えたり積み箱が少なくなってく
  るとブザーが鳴り間違いを教える。
 ・お昼前から、休み時間を除いて東京納豆3パックのラベル貼り作業を行う。3
  個ずつ輪になった側を横にし、ラベルで覆いなるべく雑菌が入らないようにす
  る。13段ずつカゴを積み上げる。
 ・食後、三井田さんにパソコンでの報告書作りのための特訓を受ける。ギブアッ
  プし手書きで行うことにしていただく。
 
所感
  三井田さんに1時間程パソコンの特訓を受けるが、とても覚えきれず、無駄な
 時間を使わせてしまったことをお詫びします。親切ではあるが、あまりにも理詰
 めすぎて、一度でしっかり頭に入れないと怒られている感じで、余計にもたつき
 オロオロする。毎日1時間、1週間で、という気持で、覚えさせて欲しかった。
 すっかり萎縮してしまった。年齢や時間の問題ではなく、やる気の問題だと言わ
 れ意気消沈する。少し教えていただいて覚えたいという気持ちが強くなっている。
 
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7月18日(水)
 
研修内容
 ・挽き割り納豆の豆の煮方を教わる
  特別な水で夏は2時間位、冬は3時間位ふやかす
 ・釜のフタは対角に1ヶずつしっかり締めること
 ・圧力を加える 圧力計は0.3〜0.4
 ・10〜20分間程度 蒸す前の準備として釜を暖める
 ・蒸しむらをなくするために前後1回ずつ釜を回転させる。圧力が0.3以上に
  ならないようにしっかり注意しながら 15分間で蒸し上げる
 ・圧力0.6を保ちながら5分間蒸す。
 ・下のコックをひねって少しずつ蒸気をにがし 圧力が0になっても蒸気が出な
  くなったのを確かめる
 ・ほぐしやすくするため1回転させる
 ・釜のネジをはずして菌水をふりかける
 ・3パック東京納豆の包装シール作業を行う。自分の受持分の日付はしっかり覚
  えておくように注意される
  冷蔵庫の番号もしっかり覚えておき間違えないこと
 
所感
  挽き割納豆の豆の煮方は、他の納豆の豆よりも難しく神経を使うので 何度で
 も教えて下さるという。7時50分位に工場に入れば いつでも指導してくださ
 ると言うので ぜひとお願いする。うまく蒸し上がった豆は栗のようにポクポク
 している。やさしい言葉で判りやすく説明して下さるので、神経質にはなるが 
 あまりオロオロせず落ち着いていられる。
 工場の女の人達皆さん殆んど駆足状態で働いて居られる
 
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7月19日(木)
 
研修内容
 ・昨日に続き挽き割納豆の蒸し上げ方。やはり、昨日1日では圧力のかけ方が覚
  えきれていない。側について丁寧に教えて下さる
 ・別釜で普通サイズの豆の煮方も見せていただく。
 ・2階で洗った豆を太いパイプで下の蒸し釜に落す様子を見る。
 ・注文のある特殊納豆のための小量の豆を大量の豆の上に置いて蒸す様子を見る。
 ・三パック東京納豆のシール包装作業を行う
 ・課長さんに新しい台のシールの取り付け方、日付の取り付け方を教わり2パック
  納豆を流してシール包装する
 
所感
  挽き割納豆の蒸し上り直後の豆のおいしさに驚く。
  初めての台のシール包装をしている時 発泡スチロール容器の縦線と横線を指の
  感触で判断し 機械に手早く置いて行かれる課長の手さばきに見入ってしまった。
  かなりの年季が必要だろう。
  納豆工場で働いているからと言って 納豆が好きという人は、少ないらしい。
  以外な気がした。
 
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7月20日(金)
 
研修内容
 ・引き続き挽き割納豆の蒸し方を教わる。
 ・簡単なラッピングの仕方を指導していただく。
 ・三パック東京納豆のシール包装作業を行う。
  シールの残りが少なくなるに従って シールの位置がずれて来るので直し方を教わ
  るがなかなか元に戻らなくて困る。センサーで位置確認するための部分に原因が
  あったらしい。
 ・カップ納豆に仮ブタを置く。
 ・機械の調子が悪く、しょうゆ、辛子を手作業でカップに入れる。
 ・挽き割納豆を容器から1ヶずつ出し しぼり出し袋に移す。
 ・納豆水かけ見学
 
所感
  挽き割納豆の蒸し方、前半の行程は大体把握出来てきたが後半の行程に不安が残る。
 早くしっかり覚えてしまわないと いつまでも工場長の手をわずらわせてしまう。
 年令も近いので、作業ののみ込み方など理解して下さっているようで 三井田さんか
 ら受けるような圧迫感がないので気持が楽である。
 三パック東京納豆のシール包装の位置がずれて困った。もっと早く気付かなければい
 けないのにカゴ入れ作業の段階にならないと気付かないので シールも無駄になるし
 申し訳なく思う。課長さんに助けていただく。きびしい課長ではあるが、やはりそれ
 なりの実力の持主。すばらしい判断力の持主。すばらしい。
 
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7月23日(月)
 
研修内容
 ・挽き割納豆及び小粒納豆用大豆の蒸し方、豆の量や大きさ 各々の釜のクセ
  などを覚えて臨機応変に使いわけなければならないことを何度も言われる。
 ・菌水かけの様子を見学、豆を適量かき寄せ、適量の菌水を大変手早くかけなけ
  ればならない。
 ・三パック納豆のシール包装 シールのズレが出ず順調に作業が進む。
 
所感
  蒸し上げた大豆が熱い内に菌水をかける作業をされる皆さんの手際の良さには
  本当に感心してしまう。工場内でのんびり歩いて作業している人は居ない。
  アルゼンチンでは絶対に見られない光景だ。
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7月24日(火)
 
研修内容
 ・昨日と同作業
 ・工場長は、なるべくいろんな所の納豆作りを見、話を聞き そこから自分に
  合った良い方法を取り入れることが大切と助言して下さる。
 
所感
  昨日の挽き割納豆用の豆は、柔らかすぎてとても作業がしにくかったと言わ
  れた。圧3でなければならない時に4に上っていたことがあったらしい。
  少しでも油断が出来ないことを実感、反省している。
 
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7月25日(水)
 
研修内容
 ・挽き割、小粒の他に大粒 極小粒の大豆を蒸し上げる。蒸し時間が大豆の大
  きさによって15,20,25,30分とそれぞれに違うことを学ぶ。
  挽き割以外は、圧力を10分かけて1.2〜4に上げ、それぞれの時間で
  0.8を保つ。大粒だけは蒸し上った後又10分間むらす。
 ・特注納豆用の大豆は、大粒に合わせて、ガーゼ状の布にくるんで一緒に蒸す
  ので途中での回転はさせないよう札を付けて注意する。
 ・福工場長よりFFCの水の効用などについて話を聞く。
 ・菌水かけ見学等昨日と同作業
 
所感
  昨日から挽き割以外は福工場長に付いて教えていただいているが、お若いの
  にイヤな顔一つせず、本当に根気良く教えて下さる。早くしっかり覚えなく
  てはと思うのだが、同時進行で釜を見ていると頭がこんがらがって来る。
  のみ込みの悪さに我ながらあきれる。
 
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7月26日(木)
 ・同時進行形で豆を蒸す。作業の様子を見ながら圧力を止めて時間をずらす。
 ・ワラ納豆詰め作業体験。ワラを広く、深く広げ、包み込む時に、豆を押え
  すぎないことが大切と指導される。
 ・創業者である社長のお母様に会っていただき、お話を伺う。
 
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7月27日(金)
 
研修内容
 ・昨日と同作業の繰り返し
 ・三パック納豆のシール包装の内、シール付け換え作業、ズレなおし等
  出来るようになる。
 
所感
  釜の扱い方がまだのみ込めていないので、レポート用紙に書き込んでみ
  たが、それでも3つの釜同時となるとあせって間違ったことをしてしまう。
  この分では釜付きだけで1ヶ月が終わってしまいそう。
 
7月28日(土)
 ・昨日と同作業の繰り返し。今日はどういう訳かいつもより落ち着いて
  かなり正確に釜が扱える様になった。
 ・ワラ納豆、ひじき、黒マメ納豆の詰め作業
 ・モロヘイヤ納豆作り見学、ゆでたモロヘイヤの水切りをしながら1本ずつ
  出来上った納豆にお箸で押し込んで行く。
 
所感
  工場長に松阪の港まつり花火大会に誘っていただく。
  久し振りにきれいな物を見、ストレス発散出来た。
  工場長ともいろいろ話が出来、とても楽しい夜を過ごせたことに感謝。
  東京や横浜などとはちがって、年配の人など知らない人に話しかけたり
  話しかけられたりしたことも新鮮であった。
 
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7月30日(月)
研修内容
 ・圧力釜を使っての大豆蒸し作業。圧力釜の扱いだいぶ慣れて来た。
 ・各種ワラ納豆、カップ納豆の詰め作業
 ・三パック納豆のシール包装
 ・段ボール箱作りを経験
 ・室入れについて機械の扱い方を説明していただく。
  室温、品温を1時間毎に記入してチェックする。
  38℃で18時間の室入れ。
 ・松阪のおやじフォーラムに出席。越田幸洋先生のお話を聞き、地域の
  方達の取り組みについての報告、提案を聞く。
 
所感
  室温40℃前後と言うことは知っていたが、品温が50℃以上になって
  いることに驚く。大豆蒸しと同様に大事なこの室入れの温度設定をいか
  に工夫するか、私の課題は大きい。
  おやじフォーラムでは、講師の良いお話も聞けたし、地域の方達の積極
  的な取り組み方にとても感心させられた。
 
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7月31日(火)
 ・昨日と同作業
 ・菌水かけ初体験。工場長が従業員を集めて改めて菌水かけのお手本を
  示して下さる。奥から手前に少しずつ掻き出し、じょうろで適量降りかけ
  菌水のかかった部分をスコップで昇降機に移す。
 ・ひまく被せの大切さを教えられる。押さえすぎてはいけないが、しっかり
  被っていないと変色するので注意すること。
 ・ボイラーの操作を教えていただく。釜の準備をするまえにボイラーを作動
  させること。止めるのは大豆蒸しの中盤でよい。余蒸気で足りる。
 
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8月1日(水)
  松阪駅まで行くが身体のだるさと頭痛のため休む。
 
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8月2日(木)
研修内容
 ・ボイラーの点火
 ・大豆蒸し作業
 ・菌水かけ作業、ベテランの方に付いていただき、三釜の菌水かけをし、
  昇降機での投降作業を行う。
  豆をよくほぐしながら手近に集め同時に菌水をかける作業は、とても
  力の要る仕事だ。
 ・豆が少なくなって来たら釜を平にして、余分な菌水を抜き、汁を入れ
  ない様に最後の豆をすくう。
 ・贈答用の納豆箱を熨斗を付け、ラッピングする。
 
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8月3日(金)
研修内容
 ・大豆蒸し作業
 ・専務から納豆の流通やコンセプトについてお話を聞く。
 ・シール会社の方との新商品のシール・デザインについての話し合いに
  同席させていただく。嬉野の自然栽培梅干しをアピールするための
  容器選びとシール作り。
 ・大台ヶ原の水会社(森の番人)を訪問し、工場内を見学させていただく、
  山から引いて来た水に熱処理をほどこし瓶詰めされる。
 
所感
  専務の地元を大切にする気持と、それを生かして商売につなげる強い
  想い、積極性は素晴らしいと思う。自然の良質水や自然栽培への強い
  拘りを感じる。地元が活性化しなければ商売も成り立たないと言うこ
  とだ。
 
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8月4日(土)
 ・滋賀県栗東町の朝市のお手伝い、見学
 ・アグリの里の工房見学。地元産ソバ粉を使ってのソバ打ち体験教室に
  参加
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 この後、研修は8月8日まで続き、9日に奥野専務殿より納豆実技
研修、修了のご報告を頂きました。
 私の講義等は、充分な時間がとれなかったため、なるべく理論的に
ステップアップ形式で行ったつもりでしたが、Sさんからは理詰めで
圧迫感等があったとのご感想を頂き、私自身の修行不足を反省してお
ります。
 8月10日、Sさんは無事アルゼンチンにご帰国されたそうです。

 はたして、アルゼンチンで納豆は根付くのか?
 Sさんの今後のご活躍に期待致します。
 
 最後になりましたが、奥野食品さんの皆様をはじめ、関係者の皆様、
色々とご協力頂きまして、誠にありがとうございました。
 
 納豆学会は、今後も納豆の世界普及にご協力していきたいと思います。

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