浪速娘の納豆嫌いを直せ!

最終更新日 平成13年6月17日
 朝日新聞大阪本社さんから、夕刊企画記事「あなたの望みかなえ隊」
への協力を依頼されました。
 これは、朝日新聞の記者さんが「隊長」となり、「隊員」の読者の方
とともにかなえましょう、というページだそうで、今回の「望み」は、
大阪にお住いの28歳の看護婦さんからのこんな内容のお手紙からはじ
まりました。
 
 「私は納豆をこよなく愛しているものです。
  ネバネバとまぜるだけでも大満足。ネギとからし、
  しょうゆを入れた時には想像も絶する香りなのでしょう。
  ホカホカのご飯に乗せた時には、軽く3膳は食べられるのでしょう。
 
   しかしこれは想像で、全く口にする事ができません。その美味し
  さを全身で感じたいのです。私を納豆ファンと公言できるよう夢を
  かなえて下さい。
   宜しくお願いします」
 
 納豆ファンになりたいという切実な願いが伝わってきます。
 これは納豆学会としてはご協力しないわけにはいきませんので、
平成13年1月28日、大阪市内にある朝日新聞大阪本社ビルま
でやってきました。
 朝日新聞さんの速水記者と合流したのち、依頼人である岡山さん
にお会いし、お話を聞きます。
 岡山さんは看護婦さんというご職業柄でしょうか、それとも性格なの
でしょうか、明るく、楽しい方で「チャキチャキの江戸っ子」に対する、
「コテコテの浪速娘」といった感じで元気いっぱいです。
 岡山さんのご家族全員が納豆嫌いだそうで、10年前に一度だけお友
達にススメられ挑戦したそうですが、鼻から抜ける臭いがダメで挫折し
たそうです。
 
 「そんなに納豆嫌いなのに、なぜ納豆ファンになりたいんですか?」
 
とお聞きすると、
 
 「納豆をかき混ぜるのが、めっちゃ好きなんですよぉ。
  アレ気持ちええですやん」
 
とのお答え
 また、TVのシーンや旅館の朝食でお友達が納豆ご飯を美味しそう
に食べるのを見て、
 
 「ガツガツって、めっちゃ美味しそうに食べはるでしょー。
  あれ、憧れですわぁ〜」
 
ということですから、納豆を思いっきりかき混ぜ、その納豆をのせた
ご飯をガツガツ食べることができるようにしなければなりません。
 そこで、今回の作戦としては、納豆を使った庶民的な納豆料理から
慣れていき、最後に納豆ご飯で締めくくる!というパターンを用意し
ました。
 納豆料理は、なるべく簡単に、かつ庶民的な料理を選択し、その料
理をだす順序も納豆ご飯に近づくよう設定しました。
 その料理と順序は以下です。
 
 納豆天ぷら → 納豆麻婆豆腐 → 納豆腐 → 納豆ご飯
 
 レシピは事前に私が作成し、朝日新聞さんの手配のもと、大阪にあ
る創作料理のお店「旬菜鰻谷 ORIGAMI」(大阪市中央区心斎
橋筋1−3−29川広ビル1F 電話06-6243-4133)さんにお願いし
ました。

 朝日新聞大阪本社ビルからお店に移動し、カメラマンと合流。
 お店は、石壁一面からチョロチョロと滝が流れ、効果的な間接照明
とインテリアがおしゃれな雰囲気をかもし出しています。
 早速、一品目の「納豆天ぷら」です。

 
 【レシピ】
   凍らせておいた挽き割り納豆に、小麦粉、コーンスターチ、卵
  をだし汁で溶き、刻んだシソの葉、エビ等のお好みの具をまぜ、
  サッと高温で天ぷらにします。
   ポイントは凍らせておくことで、氷温から一気にあげるので、
  匂いが抑えられます。
 
 今回のこの企画には、店長さんにもかなりご協力頂き、近所のスー
パーで売っている12種類の納豆の中から、各料理にあう納豆を吟味
してくれたそうで、今回は朝日フレシアさんの「金のつぶ」、旭松食
品さんの「納豆いち」を使用しました。
 天ぷらの具としては、サツマイモの細切り、エビ、桜エビ、ささが
きゴボウが入り、スダチ、大根おろしと天つゆで食べます。
 岡山さんの反応は、
 

  「いやぁ〜憧れのネチョネチョやー、美味しいー。
   自分でも作ってみますわぁ〜」
 
となかなか上々です。
 続いて、「納豆麻婆豆腐」。

 
 【レシピ】
   小粒納豆に、粒がある程度バラバラになるように片栗粉を
  まぶし、油で揚げます。
   挽肉、ニンニク、豆板醤、豆腐を使って、普通の麻婆豆腐
  を作り、最後の加熱部分で揚げた納豆を入れて、できあがり。
   唐辛子のカプサイシンによる体内脂肪燃焼効果も期待できます。
 
 お店の工夫で豆腐だけではなく、揚げたエビも入れて頂きました。
 多少辛めながら、納豆の香ばしさを残した一品です。
 「納豆天ぷら」よりもピュアな納豆に近づいた「納豆麻婆豆腐」に
岡山さんの反応は、
 
  「結構くるけどイケる」
 
重みのあるお言葉でございます。
 3品目は、さらにピュアな納豆に近づいた「納豆腐」。

 
 【レシピ】
   チョー簡単です。
   小粒納豆と絹ごし豆腐同量を混ぜ、その上に刻んだネギ(臭
  い消しの効果を期待するので、緑の部分がメインの関西のネギ
  よりも関東の下仁田ネギを使用)と少量のおろしショウガをの
  せて出来上がり。
 
 豆腐は、お店の方に探していただいた、兵庫県の「そがの豆腐」。
 納豆の臭いが鼻につくのを防止するために、金属製のスプーンで
はなく、木製の匙ですくって食べます。
 おっと、かたちも納豆がそのままになってきたので、岡山さんの
目が泳ぎはじめてきました。
 案の定、食べての感想は・・・
 

 「すごい、納豆ぉぉー」
 
 ここまできて暗雲ただよう状況となり、速水記者の表情にも不
安の色が見えてきました。
 
 「いよいよですね」
 「はい」
 
と、最後の一品、目的の「納豆ご飯」です。
 今回の納豆ご飯は、臭い対策として、多めの白髪ネギ、からし、さ
めかけたご飯を使用し、納豆は旭松食品さんの「納豆いち」にしまし
た。
 まずは、岡山さんが大好きという納豆の撹拌です。
 

 「これやりたかってん!」
 
と叫んだ岡山さんの顔には、充実感で満ちており、これから迎える挑
戦のことを忘れているかのようです。
 真っ白な糸が納豆を多い、からし、白髪ネギ、醤油を入れ、いよい
よ、ご飯の上に投下します。
 
 「さて、岡山さん、イキますか、イキませんか」
 「イキます」
 「ファイナル・アンサー?」
           『クイズ$ミリオネア』みのもんた より
 
と軽くジャブを打ったのち、納豆ご飯を口に近づける岡山さんを見守
ります。
 
 ズボッ、ズボボー、ボボー

 
 静寂の時間のなかに、納豆ご飯を頬張る音だけが響きます。
 口いっぱいに納豆ご飯を入れた岡山さんは、瞑目しながら味わって
います。
 数時間経ったころでしょうか。
 実際には数秒ですが、何時間にも感じられた重い沈黙を破ったのは、
 
 「これ、一番やわぁー」
 
の一言。
 速水記者や私を気遣っての言葉ではないことが、岡山さんの食べっ
ぷりから分かります。
 
 「このどろどろ感、よろしおすなぁ〜」
 
 すっかり納豆ご飯を楽しんでおられます。
 10年前に挑戦したものの、食べることができなかった納豆。
 やっと食べることができたという岡山さんの喜びが、速水記者や私
にまでもビンビン伝わってきます。
 そして、最後の一言。
 
 「もったいなかったわぁ〜この10年間」
 
 今回の作戦、大成功でした。
 今後も納豆嫌いを救うべく、納豆メシア(飯屋?)・三井田頑張って
いこうと思います。
 この報告の内容は、1月31日の朝日新聞大阪版夕刊に掲載されました。
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