徳島・「支那そば たかはし」
エトランゼ

最終更新日 平成12年3月15日

 「中華そば いのたに」で徳島ラーメンを見たつもりになってい
けないと、もう一店に行ってみることにしました。
 365日、火を絶やさないスープ作りをしているという「支那そば
たかはし」(徳島市入田町笠木91−1 電話088-644-0624 
営業時間11:00〜19:00)
です。
 ここのお店がまた分かりにくい場所にありまして、「入田小学校の
前を曲がる」と地図にはあるのですが、本当にこれ道?というような
ところを通ります。
 私はかなり迷いまして、

 「入田(いりた)小学校って、こっちですか」
 「ああ?入田(にゅうた)小学校ならなぁ
  向こうのほうやわぁ」
 「あっ、にゅうたですね。す、すいません」

と歩いている方に尋ねたぐらいです。
 お店の前につきますと、田舎の食堂といった感じのお店で、失礼
ながら本当に美味しいラーメンなんかできるのかなと疑ってしまい
ました。
 恐る恐るお店のなかに入りますと、さらにビックリ。
 田舎の方の台所に入った感じで、懐かしのハエとり紙がつるして
あったり、お店の方の風呂道具らしきものがカラーボックスに入っ
ていたりします。
 さらには、お店の方とお客さんが畑の話をしていたり、日本酒を
ジルジル飲みながらかなり酔っている畑帰りらしきおじさんがいた
り、まき寿司を食べながらおしゃべりしているおばさんもいます。


(このおじさん、酔っ払って目がイっちゃってました。)

 お店の方としゃべっているおじさんのラーメンは、麺がスープ
を吸いきって、きしめんのようになり、どんぶりのふちよりも盛
り上がっています。

 「今日、ママンが死んだ」

はカミュの名作『異邦人』ですが、デジカメ、メモ帳を持ってや
る気満々できた私は、ここではまさに異邦人(エトランゼ)。
 酔っ払っているおじさんと相席しかないようなので、おじさん
を刺激しないように座り、

 「あのう、支那そばの小(しょう)を1つお願いします」

とお店の方らしきおじさんに伝えると、

 「・・・・・・・」

ヤ、ヤバイ、「しょう」じゃなくて「こ」だったのかな、と不安
に思っていると、厨房の方に行ったので一安心。

 「ラーメン早くできないかなぁ〜、早くここをでたいなぁ」

と思ってラーメンを待っていると

 「兄ちゃん、どっかの先生?」

と酔っ払いおじさんに話しかけられました。

 「えっ?いえ、違いますけど」
 「・・・・・(約7秒経過)
  ほ〜かぁ、どっからきたん」
 「新潟ですけど。」
 「・・・・・(約10秒経過)
  新潟ゆうたら遠いなぁ、リンゴはできとるかぁ」
 「リンゴは長野とか青森ですけど・・・」
 「・・・・・・・」

ヤ、ヤバイ、レスポンスまでの時間が長くなってきてる。

 「はい、小ね」

待っていました。これでおじさんも話をやめてくれるだろうと
思いきや、次男が名古屋にいるだの、長男の嫁が奇麗な格好ばっ
かりして仕事しないなど、延々と独り舞台。
 とにかくラーメンを食べることにします。


(クリックすると大きな画像が表示されます)  

 具は、徳島ラーメンお約束の味付け豚バラ肉、シナチク、ネギ、
もやしです。
 スープをズズー。
 ムッ、さっぱりしている。化学調味料のクドさが少ない!
 トンコツ、鶏ガラを中心とした醤油味ですが、後口がさっぱり
しているんですね。
 麺は、一般の品らしく、茹で加減はいいのですが、「中華そば
いのたに」に比べたら明らかに独特の臭みがあります。
 それでも全体的には、さっぱり系徳島ラーメンといった感じで、
素晴らしいバランスです。
 「中華そば いのたに」では、2杯食べようとは思いませんでし
たが、このお店は2杯いけそうです。

 「すいませーん、このスープですが・・・」

とお店のおじさんに聞くと、

 「・・・・ワシィ、使用人だし、こっちになぁ聞いてぇ」

と、厨房にいたおばさんを紹介されました。
 このおばさんがまたいい人でした。

 「調味料?耳かきで2杯ぐらいなぁ、タレのほうに入れるんやぁ。
  あと、スープはなぁ、この鍋に・・・」

と厨房で私に一つ一つ説明してくれ、実技とともにスープ作りの
イロハを教えてくれました。

 スープのことを聞いて、ここまで親切に説明してくれ、かつ実
際にスープをすくったりさせてくれた人は初めてです。
 思わず、おばさんの首筋に熱い吐息を吹き付け、きつく抱擁・・・
はしませんでしたが、感謝の気持ちでいっぱいです。

 スープの講義を終え、また席に戻るとあの酔っ払いおじさんが
まだいます。

 「これから、どこいくんやぁ」
 「えっと、香川とか、愛媛とか高知に行くつもりですけど・・」
 「ほんならなぁ、この上のほうになぁ、神山温泉ゆうのあるか
  ら、お兄ちゃんなら、遊べるし、湯もええでぇ」
 「そ、そうですか、ありがとうございます」
 「それか、ワシィんとこ泊まるかぁ」
 「あっ、いえいえ、結構です、・・・では」

とお店の方、酔っ払いおじさんにお礼を述べてお店を後にしました。
 お店を出るときに、また酔っ払いおじさんが、

 「気ぃつけていんでっかよぉぉ」
           (聞き取りを間違っていなければ)

と声をかけてくれました。愛すべき酔っ払いだったようです。


(すっかり遅くなってしまいました。)

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