乗馬初体験記

〜乗馬はつらいよ〜

最終更新日 平成14年3月30日

 インターネットの懸賞で「乗馬トライアル二日間コース」
という招待券が当たりました。
 乗馬というと、ブルジョアジーなスポーツ、お金がかかる
というイメージがあり敬遠していたのですが、タダとあって
は行かないわけがありません。(貧乏性)
 平成10年1月10日、朝9時に池袋駅に集合して、乗馬
クラブのバスを待ちました。
 待ち合わせ場所には、いかにも
 
 「ちょっとアタクシ違いますのよ、オホホ」
 
という態度をとっているお姉さんや、普通のお姉さんではなく
プロフェッショナルなお姉さんも多くいらっしゃり、周りに
漂う妖艶な香水の香りは、
 
 「テーブルチャージ 4000円」
 「フルーツ盛り合わせ 6000円」
 
をイメージさせました。タダという引け目がある私は、
タダタダ下を向きバスの到着を待ったのでした。
 乗馬クラブのバスに揺られること一時間半、千葉県山武郡
にあるオリンピッククラブに着き、いよいよ乗馬です。
 買ったばかりの乗馬グローブ、借りたばかり?ブーツ、
ヘルメットを身につけ、颯爽と馬場に向かいました。
 馬に乗る回数は鞍で数えるそうで、一鞍目はどの馬、二鞍目
はこの馬というふうにスケジュールが組んでありました。
 私の一鞍目はサクラヤマトオー。後で知ったのですが、
この馬はアイビーステークス、府中三歳ステークス、
ホープフルステークスで勝ち、弟のサクラチトセオーは
天皇賞で優勝、妹のサクラキャンドルはエリザベス女王杯
で優勝、という実績と血筋の素晴らしい馬でした。
 周りの方からは、
 
 「いーなー、いきなりサクラヤマトオーかよ」
 
と羨望と嫉妬の目で私を見ていたのですが、私はすっかり
 
 「ふっ、初心者ずれしたボクの乗り方に惚れたな。
  これでも少し経験があるんでね」
 
などと一人で勘違してました。白状しますが、実はアメリカ
でしばらくラバに乗ったことがあるだけです。
 馬の歩き方には、常足、速歩、駈歩の三通りがあり、
とりあえず一鞍目は常足だけの練習です。
 
 「ようしサクラヤマトオー、常足だ」
 
とお腹にくるぶしを少し当てて合図するとサクラヤマトオー
はゆっくりと常足を始めました。
 この時点でボクは、言うことをしっかりきいてくれる
サクラヤマトオーが気に入ってしまい、
 
 「もう誰にも渡したくないからね」
 
とサクラヤマトオーに話しかけました。
 私、ちょっとアブナイんです。
 
 しばらくするとインストラクターの方が、
 
 「ヤマトはいーでしょー」
 
と話してかけてくれましたが、
 
 「ボクの馬を気安く呼ぶんじゃない」
 
と既にサクラヤマトオーを自分のものだと思っている、チョー
わがまま状態になっていました。
 みんなが「ヤマト」「ヤマト」と気安く呼ぶので、私は
「サクラ」と呼ぶことにしました。この呼び方はボクだけです。
 サクラ、サクラと何回も呼んでいるうちに、なにやら違う
感情が芽生え、
 
 「サクラ、兄ちゃんだよ。苦労かけたなぁー」
 
と私が思えば、
 
 「いいのよ、お兄ちゃん」
 
と言い返してくるような気がします。そのうち、インストラ
クターの方の顔もヒロシ(前田吟さん)に見えてきました。
 
 「三井田さーん、もっと手綱を短く持って!」
 
なんて言われると、
 
 「うるせー!ヒロシっ!」
 
と言い返したくなり、馬場の周りで写真をとっている人も
山田洋次監督に見えます。練習コースを区切っているポール
のツルツルした先端を見ては、
 
 「おい、タコ(社長)、あいかわらずバカか?」
 
と心の中で話しかけ、サクラがポールに当たると
 
 「お兄ちゃん、アタシは大丈夫よ」
 
と聞こえてきます。
 もちろん、乗馬待ちしている、ちょっと効きすぎパーマ
のおばさんは、佐藤蛾次郎さんに見えてました。
 
 こうして寅さんファミリー?に助けられ、無事一鞍目を
終えました。
 食事をとってからの二鞍目。馬は「青竜」でした。
 サクラじゃない、という私の気持ちが伝わってしまった
のか、あまりいうことを聞いてくれず、常歩からレベルの
上がった速歩の練習はボロボロ。
 落ち込んで一日目を終えたのでした。
 
 二日目、乗馬場についてスケジュールを確認にすると、
なんと三鞍目、四鞍目ともにサクラヤマトオー。
 多少浮き足だって馬場に行き、サクラと感動の再会です。

 
 「あっ、お兄ちゃん」
 「そうよ、お兄ちゃんよ!
  おいちゃん、おばちゃんは元気か?」
 
と心の会話が交わされ、レッスン開始。
 常足はもとより、速歩もサクラとの息がピッタリです。
 四鞍目には、自由自在にサクラを扱えるようになりました。
 
 あっという間にレッスンが終了し、サクラとお別れの時間
になりました。
 
 「あばよ、サクラ。また来らぁ」
 「お兄ちゃん!」
 
 サクラの眼が潤んでいたような気がします。
 未練を残しつつ馬場を去り、背中に男の哀愁を漂わせなが
ら、クラブハウスに向かったのでした。
 クラブハウスでは、レッスン終了後のオリエンテーション
があり、正式会員になるための説明が行われました。
 またサクラに乗りたい、と未練タラタラのボクは熱心に話
を聞いていたのですが、
 
 「正式会員は永久登録となりまして、
  入会金のほうが三百万円、
  年会費が二十五万円となっております」
 
 ・・・・・・・・・・思考停止。
 この瞬間、ボクとサクラの関係は終わったのでした。

「三井田のエッセイ」へ戻る。


トップへ戻る。


ご意見、ご要望はこちらまでお願い致します。