第1回魚沼そば打ち選手権大会

最終更新日 平成12年12月3日

 

 新潟県魚沼地方は、蕎麦に「ふのり」という海藻を練り込んだ「へぎそば」
が名物です。
 つなぎとなった「ふのり」が作り出すコシ、つるんとしたのど越しが醍醐味
の蕎麦ですが、その「へぎそば」をいかに美しく打つか、という大会「第1回
魚沼そば打ち選手権」が、平成12年11月26日(日)、新潟県広神村で開
催されました。
 私も出場しようと思ったのですが、全国紙に周知されたのが、既に申し込み
を締め切った後であり、今回は取材のみとなってしまいました。周知のスケ
ジュールは、来年以降改善して頂きたいと思います。

 会場となった広神村勤労者体育センターは、試合開始30分前から出場者と
思われる方が、各々の蕎麦打ち道具を持ちながらウロウロ。
 この蕎麦打ち大会は、蕎麦打ち道具一式持ち込みなので、選手によっては、
かなり年季が入り、代々受け継がれたであろうこね鉢や、ホームセンターあた
りで買ったようなアルミボウルだったり、はたまた自分で切り出してきたのし
棒だったり、出場者によってマチマチです。
 その出場者の参加資格は、「今までそばで商売したことがない人」というだ
けですから、使い込まれた調理服を着込んだ方、作務衣をイキに着こなす陶芸
家風の方、休日なのになぜかビシッとネクタイをしてエプロンをつけている熟
年のオトーサン等々、道具同様こちらもマチマチです。
 ルールは、広神村産蕎麦粉(信濃1号)500g(挽きぐるみ)、小麦粉100g
(強力粉)、打ち粉100g、ふのり(20gの乾燥ふのりを500ccのお湯で煮て、さ
ましたもの)を使って40分以内に蕎麦を打ち、早さではなく、「水回し」、
「こね」、「のし」、「切り(1本が2.2mm以下で20cm以上つながること)」、
「その他(意気込みや服装、衛生面)」の5項目について5点満点で採点さ
れます。
 「その他」の衛生面評価においては、作業台での粉の処理の他に、そば粉を
いかに大切に扱うか、というものも含まれるそうです。評価の「意気込み」は
ちょっとよく分かりませんが・・・・・。

 参加選手は、全部で18名。下は44歳から、上はなんと86歳です。
 この大会自体は、減反政策のあおりを受け、転作作物として村をあげて奨励
した蕎麦の良さを理解してもらい、さらには蕎麦食文化を根付かせよう、とい
うのが趣旨のようですが、いかんせん出場者や観客に20代はおろか、30代
の方もおらず、蕎麦文化の継承はキビシーようです。
 ですが、この大会は民間の蕎麦打ち愛好会が行政に働きかけて実現したそう
なので、今後の蕎麦文化活動には希望があると思います。
 ちなみに、平成11年の蕎麦の国内生産は約2万トン、それに対し輸入は約
10万トンとなっており、蕎麦を食べるときの純国産品は「水とネギだけ」と
いう日が近い状態になっているそうです。
(新潟魚沼農政事務所所長も嘆いておられました)

 さて、いよいよ競技開始です。
 会場には、「広神よいとこ、住もうじゃないかぁ〜」と暗いテンポの地元ソ
ングが流れ、熟年のノリで盛り上がってまいりました。
 蕎麦粉と小麦粉、そしてふのりをうまく混ぜる「水回し」では、指先しか汚
れないプロ級の人、なぜか肘先がすべて汚れている人がおり、ここではやくも
差がでています。


 ある程度まとめたそば粉を玉にしてこねる「こね」では、正しく作業台でこ
ねている人だけではなく、作業台からこね鉢をおろして、床にペタリと座り込
んでこねている方が2名いらっしゃいました。
 そのうちの1名が注目の選手、蕎麦打ち歴20年、桜井作蔵さん、86歳!

 広神村蕎麦打ち会名誉会長である桜井さん。名誉会長といえば普通ふんぞり
返って偉ぶってるようにイメージしますが、この名誉会長は御大自らの出場し、
汗水たらして蕎麦を打っています。
 こねながら揺れる補聴器に人生に対する情熱を感じます。
 当然の事ながら、会場でも話題の的。女性アナウンサーも盛んに話しかけま
す。

 「桜井さん、力はいらないんですかぁ?」
 「ああっ?、聞こえねぇーて。」
 「桜井さん、ちーかーらーはいらないんですかぁ?」
 「あっ?・・・・・・」

 見かねた隣の出場者が、耳打ちするように

 「力はいらねぇのかってよ」

と叫ぶと

 「ああぁ、大丈夫、大丈夫」

というゼンゼン答えになっていない、お答え。人生の重みを感じます。
 自家製ののし棒で「のし」、「切り」では多少正確さには欠けますが、見事
な太さにそばを切った桜井さん、制限時間40分ギリギリで完成です。

 まだ蕎麦打ち経験の少ない私ですが、私の目から見ても明らかに周りの選手
のレベルが違う選手が1名、蕎麦打ち歴8年、平井栄さん、47歳です。
 樫の木をくり抜いたこね鉢など道具は一級品、腕も一級品で、2本ののし棒
を使っての「のし」は芸術的ですらあります。
 審査員であるプロの蕎麦打ち職人も一目おいたようで、鋭い眼光でその動き
を追っています。

 トン、トン、トンと軽快なリズムで切った蕎麦は、1本あたり太さ2mm以下
長さにいたっては30cmぐらいあり、機械打ちのように正確です。
 うーん、グレイト。

 すべての競技が終了し、いよいよ結果発表ー!と思ったら、地元・広神村一
芸会による踊り、「津軽あいや節」「名槍日本号」「演歌桜」となりました。

 おしろいをたっぷり塗ったそのご尊顔に、おばあちゃんに連れてこられたお
孫さんらしき子供は恐れ戦いてます。

 いよいよ本当の結果発表。
 特別賞は、田巻一夫さん(52歳、新潟県田上町)、そして今大会のタイフー
ン、桜井作蔵さん(86歳、新潟県広神村)です。
 広神村のそば粉やコシヒカリをもらった桜井さんは、満面の笑みを浮かべて
拍手に答えています・・・・・カッコイイ、ジジイ(失礼)です。
 そして優勝は、やはり蕎麦打ちマシーン・平井栄さん(47歳、新潟県栃尾市)
でした。

 早速、勝手に勝利者インタビューしたところ、普段はゴルフ場のレストラン
で、和食から洋食までを作るお仕事をされていることが分かりました。
 ちょっと反則じゃないかという気もしますが、相手にとって不足はありません
(勝手にライバル視・・・)、来年は平井さんを脅かせるよう、さらなる蕎麦打
ち精進に励みたいと思います。

 「コックさん相手がなんだ!こっちは刻苦勉励して倒してやるぞ!」

とレスポンスに困るコメントを残して、報告を終わります。

その他の結果
  準優勝 笹川正勝さん(64歳、新潟県新津市)
   3位 笠原達男さん(49歳、新潟県横越町)

賞品

優勝  天日乾・魚沼コシヒカリ 30kg
    ヒラタケ1箱・そば粉10kg
準優勝 天日乾・魚沼コシヒカリ 10kg
    ヒラタケ1箱・そば粉5kg
第三位 天日乾・魚沼コシヒカリ 5kg
    ヒラタケ1箱・そば粉3kg
特別賞 天日乾・魚沼コシヒカリ 5kg
    ヒラタケ1箱・そば粉3kg

参加賞 ヒラタケ・そば粉1kg 

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