1991年の新聞記事

最終更新日 平成10年12月31日 それぞれの記事は引用です。


 
『[一村逸品]あぶくま納豆、宮城県角田市農協』
1991/11/05 日本農業新聞
 
 省農薬栽培の転作大豆に付加価値を――と、宮城県の角田市
農協(鎌田保組合長)は納豆に加工、「あぶくま納豆」と名付
けて売り出したところ、うまさと安全性で高い評価を得てい
る。
 
 同農協管内は、約百十ヘクタールの転作田で大豆を生産して
いる。同農協は安全農産物生産に努めており、二十二の小粒大
豆組合も、いずれも農薬使用回数を一回と決めた省農薬栽培
だ。「あぶくま納豆」はすべてこの省農薬栽培の大豆を使用、
安全性と味の良さを売り物にしている。
 
 昨年末には納豆センターも完成。一部二階建て、延べ床面積
千二十三平方メートルで、最新設備を備えている。従業員は十
人。日産十四俵、約一万四千食分の製造能力を持つ。
 
 販売先は同農協生活センターはじめ、仙南地区の農協など。
価格は大豆の種類によって異なり、極小粒(五十グラム入り二
箱)が百十八円、小粒(百グラム)七十八円、丸大豆(百グラ
ム)四十八円など。
 
 問い合わせは角田市農協納豆センター、宮城県角田市佐倉字
宮谷地二、電話0224(63)2861。
 

 
『[一村逸品]「姫っこちゃん」宮城県志波姫町農協』
1991/09/14 日本農業新聞
 
 納豆の原料といえば外国産大豆が圧倒的に多い中で、この製
品は純粋な国産品。転作大豆を使い、自前の施設で加工した″
土地密着型″の納豆だ。
 
 原料は県奨励品種の極小粒大豆「コスズ」。粒よりの大豆を
使い、いくつかの工程を経て製品にするまで四日間。五日目に
消費者に届くが、「本当のうまみが出るのは、製品になってか
ら三、四日後なんですよ」と宮城県栗原郡の志波姫町農協農産
課の三浦和昭さんは話す。
 
 四十五ヘクタールの畑からの原料大豆で、一週間に一万〜一
万五千個をつくる。加工は町が国の補助で造った農産加工室で
行う。昭和六十三年七月から販売を始め評判は上々だ。
 
 地元を中心にした消費だが、盆や正月に帰省した人が、土産
に持って帰ったり、隣町の病院がまとめて購入したりもする。
また学校給食センターや宮城県経済連の共同購入でも扱い、知
名度は意外に高い。
 
 昨年度の県農産加工コンクールで最優秀賞に輝き、地元では
自信を深めている。製品は「姫っこちゃん」(五十グラム入
り、三個百十円)と「元気クン」(百グラム入り、六十五円)
の二種類。
 
 問い合わせは志波姫町農協農産課、電話0228(25)3
211へ。
 
 

 
『国産大豆増産を、流通懇発足し対策検討、農水省』
1991/05/31 日本農業新聞
 
 国産大豆が減り始める一方で、豆腐、納豆、煮豆用など国産
大豆の需要者が増産を望んでいる。こうしたことから、農林水
産省は三十一日、「国産ダイズの生産と流通懇談会」を発足さ
せ、国産大豆振興対策を検討する。
 
 大豆の生産は、水田転作とともに増え続けてきたが、昭和六
十二年をピークに作付け、生産量ともに減り始めた。平成二年
産の生産量も、約二十二万トンとピーク時に比べ、六万トンも
減る見込み。このため、需要者業界では国産大豆の引き合い
で、価格も高値になっている。
 
 こうしたことから、豆腐、煮豆など、国産大豆の需要者は、
増産を望んでいる。国産大豆使用の高級化商品が伸びている豆
腐業界は「国産大豆を使うと味が違う。国産が無くては困る」
(全国豆腐油揚商工組合連合会)と言う。輸入物は小粒で味が
落ちるため、国産を使ってきた煮豆業界も「国産が足りない
と、原料代が上がり、最後は製品の売れ行き不振につながる」
(全国調理食品協同組合)と、増産を求めている。
 
 また、全国穀物商協同組合連合会も「大豆の製品も高級化志
向。国産大豆の需要も拡大してきている」と、流通問屋の立場
から、国産物の引き合いの強さを説する。
 
 こうしたことから、農水省は「安定生産をはじめとする国産
大豆振興のための生産、流通対策を考えることが必要」(農産
園芸局)と、生産、流通、加工業界の関係者を集め、国産大豆
振興のための対策を討議する懇談会を発足させることにした。
食用大豆の自給率は三割程度にとどまっているのが実情。
 
 

 
『[追跡・納豆]9、もっとおいしく、ギョウザ、ハンバークに』
1991/05/16 日本農業新聞
 
 ″納豆をもっとおいしく食べたい″というこだわりから生ま
れた納豆料理を二回に分けて紹介しましょう。
 
 このメニューは、納豆業界が全国の主婦に選んでもらった人
気料理です。
 
 ◇納豆ギョウザ
 
 ▽材料(二十個分)=納豆(ひき割り)九十グラム、長ネギ
二分の一、ギョウザの皮(市販のもの)二十枚、塩・こしょう
各少々、揚げ油適量。
 
 ▽作り方=(1)長ネギは、みじん切りにし、納豆と混ぜ、
塩・こしょうで味付けする(2)スプーン一杯ほどの(1)を
皮にのせ、周りに水をつけて包み込み、約一七〇度Cの油で、
皮のひだ目にこげ目がつく程度にさっと揚げ、塩をふりかけ
る。具がねばつくので包み方をしっかりと。ニラやニンニクの
茎なども加えると美味。
 
 ◇納豆ハンバーグ
 
 ▽材料(四個分)=納豆(ひき割り)九十グラム、タマネギ
二分の一、ニンニク一、長ネギ二分の一、ニンジン四分の一、
ヒジキ(もどしたもの)少々、おから一カップ、小麦粉三分の
一カップ、塩・こしょう・しょうゆ・各少々、油適量、ケチャ
ップ・ウスターソース各同量。
 
 ▽作り方=(1)納豆以外の材料をみじん切りにし、油でい
ため、塩、こしょう、しょうゆで下味つける。さらに油を足
し、おからを加えていためる(2)火から下ろしてボウルに移
し、納豆と小麦粉を少しずつ加えながらよく混ぜ合わせる(
3)小麦粉を少し入れたバットに(2)を移し、小麦粉を全体
にまぶしながら、ハンバーグの形にして、フライパンで両面を
焼く(4)(3)を焼いたフライパンに、ケチャップとウスタ
ーソースを加え、混ぜ合わせハンバーグにかけて食べる。ソー
スは好みに応じて。辛しじょうゆなどでもおいしくいただけま
す。
 
 ◇納豆巻き
 
 ▽材料(四〜五人分)=納豆(ひき割り)九十グラム、(
A)しょうゆ小さじ二、削りガツオ大さじ三、ネギ二分の一、
焼きのり四枚、ご飯五カップ、青ジソ少々。
 
 作り方=一、(1)納豆に(A)の調味料を加え混ぜておく
(2)のりにご飯を広げ(1)をしんにして巻く(3)青ジソ
の葉を敷いて、四つに切り分けたものを盛りつける。
 
 二、(1)納豆はしょうゆ少量と混ぜ合わせておく(2)青
ジソの葉に納豆を包み、さらにのりにご飯を広げたもので手巻
きずしのようにして巻く。おやつ、おつまみにも最適。
 
 

 
『[追跡・納豆](8)市販品を煮豆に混ぜ、手づくり楽しむ』
1991/05/15 日本農業新聞
 
 「家庭で納豆を作ってみたい」という人が増えています。そ
こで禅僧の藤井宗哲さん(神奈川県鎌倉市在住)や茨城県工業
技術センター(食品発酵部)の話から作り方のこつを紹介しま
しょう。
 
 まず大豆を洗って、三倍量の水に一晩漬けます。その大豆を
五〜六時間ほどゆっくりと煮ます。煮上がりは指でつまんでつ
ぶれる程度。市販の納豆を買ってきて大さじ一杯強を茶わんに
入れて煮豆に混ぜ、ポリ容器に盛ります。
 
 市販の納豆のほかに納豆菌を購入してかけたり、稲わら(納
豆菌が付着)に触れさせる方法もありますが、「納豆を買って
きて混ぜるのが一番手っとり早い」と藤井さん。手早く容器に
盛ったら、これをこたつなどで四〇度C前後に保温します。容
器は通気性をよくすることが肝心で、上ぶたを軽くかぶせる程
度にしておきます。
 
 納豆菌は腐敗菌なので長時間発酵させると腐敗しますので要
注意。適温(四〇度C前後)で十六〜十八時間ほど保温すれば
納豆になります。この後常温で数時間置くと納豆特有の風味と
うまみが出てきます。
 
 昔懐かしい「わらづと」で納豆を作りたい人は、稲わらを熱
湯消毒(雑菌を殺すため)し、二十センチの間で両端をしば
り、筒状のわらを開いた中に煮豆を詰めます。そして先端のわ
らを折り曲げて、ふたをするように完全にかぶせます。保温の
手順は同じです。
 
 稲わらには納豆菌が付着していますので自然にネバネバの納
豆が出来上がりますが、市販の納豆を混ぜればより効果的で
す。
 
 食べごろは、いずれも冷蔵保存した納豆で一週間ころまでが
一番おいしいそうです。十日過ぎると歯ごたえもなくなって味
も落ちてきますが、そんな時は納豆を包丁でたたいてみそ汁に
入れると、おいしい「納豆汁」が楽しめます。
 
 もう一つ、藤井さんのお勧め品が「一夜納豆」です。作り方
は従来の納豆とは異なります。大豆を一晩水に浸しておき、煮
るまでは変わりませんが、この後かくし味程度の砂糖、うすく
ちしょうゆ、それに米の粉を大豆の二割弱まぶして混ぜます
。、
 
 二〜三時間放置しておくと薄くくずを引いたようなとろみが
つきます。従来の納豆とは違って糸の引きが淡く、ほろ甘さ
の″納豆″が出来上がります。
 
 こだわり派は、大豆(国産)作りから挑戦してみては? ″
一坪菜園″にまけば初めての人でも六百グラムから一キロは取
れます。家庭で手作り納豆を楽しめる量です。
 
 

 
『[追跡・納豆]7、国産大豆でおいしく、地元産の極小粒種で』
1991/05/14 日本農業新聞
 
 「うまい納豆づくりの条件は国産のいい大豆を使うことです
よ」と、宮城県の角田市農協納豆センター所長の佐藤武雄さん
は自信をもって言います。
 
 同農協では昨年末に一日一万八千食を生産する能力を備えた
納豆工場を完成させ、生産を始めました。自慢は省農薬有機栽
培の地元産の極小粒「コスズ」大豆を使った″こだわり納豆″
です。
 
 農協では水田転作の大豆の作付けを安定させ、農家の所得拡
大を図ろうと、この大豆に付加価値を付けて販売することを考
えたのです。
 
 管内の稲転面積七百六十ヘクタールのうち大豆栽培二百五十
ヘクタール。このうち納豆向けが百十ヘクタール。極小粒品種
の導入と省農薬(植え付け前一回の除草剤使用)栽培のため、
生産が思うように上がらないのが農家の悩みですが、農協が製
品売り上げの一部を還元するなどバックアップもあり、意欲的
に取り組まれています。
 
 納豆通から「最近の納豆はまずくなった」との指摘もあり、
輸入大豆にその目が向けられています。輸入大豆は油を搾るた
めに作られたものも多く、うまみに欠けるというのです。佐藤
さんは「その点、国産大豆は外国産に比べ、たんぱく質や糖分
が多く脂肪が少ないのおいしい納豆が出来上がる」といいま
す。
 
 この工場では製造行程(大豆の選別、豆洗い、蒸し煮、納豆
菌の噴霧、盛り込み、発酵、冷却、包装)を最新のオンライン
システムを導入してこなしているのがみそ。うまい納豆を作る
には「大豆の質だけでなく、徹底した品質管理が重要」(佐藤
さん)だからです。
 
 一日千二百キロの大豆を加工する能力はありますが、原料
(大豆)が不足状態のため、現在八百四十キロほどを処理。経
営面から一部中国産も使っているものの将来はすべての原料を
地元産大豆で賄う考えです。
 
 生産された製品は極小粒、小粒の丸大豆やなど六種類。「あ
ぶくま納豆」の名前で″うまい・安心″を売り物に、主にみや
ぎ生協(本部・仙台市)のほか同農協の生活センターや仙南の
七農協の店舗で販売しています。
 
 省農薬有機栽培の大豆で、納豆のたれも添加物を一切使わ
ず、しかも百グラム入り七十円台と格安なのが魅力で地域住民
からは好評です。
 
 納豆の全国ネットワーク化を進めているクラブ・ナット(神
奈川県藤沢市)事務局の新関久美子さんは「日本の風土から生
まれたものが日本の食品には一番。国産の大豆がおいしい納豆
のこだわりになってくる」と語っています。
 
 

 
『[追跡・納豆]6、原料は輸入主力、品質上回る国産が「欲しい」』
1991/05/13 日本農業新聞
 
 納豆人気は国産大豆の振興につながる? 「残念ながら今の
ところそこまではいっていません」と全農・農産部特産課の高
橋博明さん。
 
 納豆に使用される大豆は、農水省の調査で昭和六十年八万八
千トンが平成二年に十万七千トンまで伸びています。みそ用が
十八万トンから十七万二千トン、豆腐・油揚げ用が四十六万ト
ンから四十九万トンの動き。「ほかの発酵食品が頭打ちの中で
納豆は健闘しています」(高橋さん)。
 
 問題は納豆向け大豆の中身だと高橋さんはいうのです。国産
大豆はわずか一九%の二万トンに過ぎず、中国、アメリカ、カ
ナダなどからの輸入に頼っているのが実情。
 
 日本の大豆は水田転作で特定作物になってから増え出し、平
成二年の作付けで十五万ヘクタール、生産量で二十二万トン
台。「国産の受け皿は十分にある」と全農では増産を呼び掛け
ていますが″笛吹けど踊らず″といったところ。
 
 「労力がかかり、ほかの作物に比べ収益性ももうひとつ」と
いうのが農家の見方。このため生産団体などでは高収量を上げ
るための技術や栽培の集団化、機械の効率的利用のよるコスト
低減などの指導を進めてきています。
 
 ただ、納豆向け大豆の場は、選別がよ重視されることや地域
的に不向きな品種もあって産地も限られるのがネック。それに
輸入物との価格差が大きいのも問題。
 
 農水省・食品油脂課係長の佐々木勉さんによると、「輸入物
が六十キロで末端価格の平均が四、五千円台。国産物は一万円
台」とのこと。大手の納豆メーカーでは「国産大豆も欲しいが
足らないので輸入に頼らざるを得ない」(秋田・ヤマダフー
ズ)というものの、安く仕入れられるのが大きな魅力といえる
ようです。
 
 輸入大豆はまずいといわれますが「これは油や飼料用のも
の。最近では、日本の品種を持ち込んで契約栽培の形で入って
きたり、納豆向けの品種改良も進んでいるので見劣りしなくな
った」(全国納豆協同組合連合会)といわれます。
 
 それでも「国内で生産されている大豆の方が外国産のものよ
りたんぱく質が多く、粒ぞろいがいい」(全農)のも事実。消
費者は食品への安全性や高級感、味の良さを求めるようになっ
てきており、国産大豆を使った納豆に関心が集まっています。
 
 納豆メーカーも、いち早く「国産大豆使用」を表示して個性
化商品として売り出しており、「少々割高になるが、売れ行き
は良い」との声も聞かれます。
 
 

 
『[追跡・納豆]5、縄文後期に出現が有力』
1991/05/10 日本農業新聞
 
 関西方面で伸びてきたとはいえ、まだなじみが薄く消費は依
然″東高西低″です。なぜ、し好にこのような地域差がみられ
るのかも含め、納豆文化のルーツを探ることにしました。
 
 食文化研究家の間では縄文時代後期というのが有力説。竪
(たて)穴住居の中で床の下に敷き詰められたわらや枯れ草に
落ちた煮豆が、納豆菌を発酵させてたまたま″糸引き納豆″が
できたという説です。
 
 精進料理の専門家で納豆にも詳しい禅僧・藤井宗哲さん(神
奈川県鎌倉市在住)によると「稲わら一本におよそ一千万個の
納豆菌がついている。古代の住まいで温・湿度がそろった条件
下なら納豆ができる可能性は十分」といいます。
 
 納豆には二系統があるといわれ「糸引き納豆」に対し「塩辛
納豆」。この製法はみそやしょうゆの原型で、奈良時代に中国
から伝えられたといわれます。
 
 そして、納豆という文字が初めて登場するのが平安時代のこ
と。当時書かれた「新猿楽記」にも記載されています。納豆の
語源は「僧房の納所(なっしょ=寺の台所)で作られたことに
由来する」と藤井さん。仏教の戒律で肉類を食べないお坊さん
の貴重なたんぱく源だったというのです。
 
 納豆伝には八幡太郎源義家の話も登場します。後三年の役
(一〇八三〜一〇八七)で奥州に出兵した折、農民に煮豆を俵
に詰めて供出させたところ、数日後香りを放ち糸を引く納豆を
発見したというもの。納豆発祥の記念碑が秋田県横手市内に建
立されています。 ただ平安時代は、あのネバネバとにおいに
閉口、京から姿を消したとの話もあり、藤井さんは「これらの
ことが京阪神に現在まで納豆文化を根づかせてこなかったので
は」とみます。
 
 また藤井さんはこれまでの調査から「納豆を食べてきた地域
は海のない、それも山間部」といいます。「魚や海藻もまれ
で、塩も貴重品。だから年中作れる栄養価の高い納豆に頼った
のでは」とみる一方、「反対に海に近く、温暖な地域に納豆を
食べる習慣がなかったのは、いつも新鮮な魚介類や海藻が手に
はいったからでは」と推測。し好の地域差が読みとれます。
 
 そんな納豆も江戸時代になると庶民の味として普及しまし
た。一茶も「納豆と同じ枕に寝る夜かな」と詠んでいます。
 
 ところで納豆といえば″水戸納豆″に代表されますが、その
歴史は決しては古くはありません。明治二十三年に常磐線での
駅売り、その後各駅のホーム売りと広がりました。線路と線路
で結ばれた情報ネットワークの成果です。
 
 

 
『[追跡・納豆]4、健康を旗印にして海外へ進出図る』
1991/05/09 日本農業新聞
 
 「健康食品のイメージが高まった今が消費を伸ばす絶好のチ
ャンス」とばかり、納豆メーカーの売り込みに熱が入ります。
全国の納豆メーカーはおよそ九百。市場規模は三年前の八百億
円から、現在一千億円まで伸びているといわれます。
 
 しかし大半は零細企業。大手といわれる十数社で半分近いシ
ェアを占めているそうで、資本力を生かしてますます寡占化の
勢い。
 
 そして、これら大手メーカーを中心に商品開発にしのぎを削
り、需要の期待される関西方面への進出、海外輸出まで戦略が
練られています。
 
 最近の特徴は、「質の高級化・小粒化、そしてカップ入り、
たれ付き。さらに核家族化が進む中で少量・小型化に進んでお
り、一カップ五十グラム入り、三十グラム入りが人気商品」
(全国納豆組合連合会)。
 
 また、においが苦手な向きにはドレッシングのたれを添えた
り、ネバネバが嫌な人には糸をあまり引かない納豆も売り出す
など、現代にマッチさせた新商品が続々と登場しています。
 
 最大手のタカノフーズ(茨城)は、一昨年三重県内に納豆工
場を建て、本格的な関西市場へ進出。次いで大手のヤマダフー
ズ(秋田)も、二〜三年後をにらみ本腰を入て″西進″戦略を
練り、冷凍空輸で海外(米国、中東、欧州)進出にも意欲的。
 
 同社では日産三十万パックのうち、外国向けはまだ三%ほど
ですが「健康食品のイメージが高まれば(外国でも)浸透する
はず」(同社専務の山田幸夫さん)との読みもあります。
 
 同社は昨年、脳卒中や心筋こうそくの原因となる血栓の溶解
作用が強いナットウキナーゼを含む納豆菌の開発に成功し、今
年から商品化に動き出しました。
 
 ナットウキナーゼの発見者である岡山県立短大助教授・須見
洋行さんのアドバイスを受け、細胞融合の手法で新しい納豆菌
の抽出に成功したのです。血栓を溶かす力が従来のものより二
〜三倍も強い納豆菌(酵素)といわれ、「社運をかけた新商
品」(山田さん)です。
 
 納豆で食べるだけでなく、ナットウキナーゼを分離培養させ
てドリンク剤として売り出そうとの計画もあります。
 
 こんな業者の思惑に、″納豆党″を自認する農水省熱帯農業
研究センター主任研究官の加藤清昭さんは「あのネバネバと独
特な風味こそ納豆たるゆえん、少しいき過ぎの感がある」と苦
言を呈します。
 
 

 
『[追跡・納豆]3、食料危機を救えるか、国際貢献への期待担い』
1991/05/08 日本農業新聞
 
 「大豆・納豆の国際的に果たす役割が大きくなりました」と
気炎をあげるのは、農水省熱帯農業研究センター主任研究官の
加藤清昭さんです。
 
 四年前から国連食糧農業機関(FAO)農業局バイオ担当官
として、西アフリカの大豆生産と納豆に着目し、指導・普及に
奔走してきた一人です。
 
 そこで確信したのは「二十一世紀の食料危機(途上国)に貢
献するとみられるのは大豆を原料とする高たんぱく発酵食品」
(加藤さん)というのです。
 
 人口増と食料の危機の中にあるナイジェリア。二〇三〇年に
は四億人を超え、人口で世界第三位になるといわれます。その
たんぱく必要量は一千万トンにもなるといわれています。「こ
の需要を動物性たんぱくでまかなうのは到底不可能」と加藤さ
んはいいます。
 
 ただ、幸いにも土壌に適した大豆の育種に成功し、十年前か
ら栽培が取り組まれており、加藤さんは「将来の食料をまかな
う″救世主″になる」と期待をかけています。
 
 ナイジェリアに行って知ったのが、日本の納豆に似た発酵食
品があることだった、といいます。日常食(調味料)として利
用されていたのです。ダワレという樹木になるローカビーン
(豆)を蒸し煮し、日本と同じ糸引き納豆菌で発酵させた「ダ
ワダワ」という食品がそれ。
 
 これを天日乾燥して保存しておき、調理する時は熱湯に溶い
てトウモロコシやトウガラシ乾燥野菜などと煮込んだスープを
キャッサバ芋などで作った蒸しパンのようなヤム・ガリと一緒
に食べるというもの。
 
 「においはかなり強烈ですが、料理に使うとうまい」という
のが加藤さんの感想です。ただ、頼みのこのローカストビーン
が不足しだしたのです。
 
 そこで加藤さんは、日本のボランティアの学生らと日本から
納豆を持ち込み現地の人に試食してもらったところ、おおむね
好評だったとか。「受け入れられる可能性は十分ある」(加藤
さん)。
 
 大豆とその発酵食品が定着していけば「アフリカの食料危機
を救うだけでなく、健康も与え、大豆加工のための雇用機会と
収入をもたらすこともできる」と夢は広がります。西アフリカ
地域の大豆生産は現在、年産で百万トン台まで成長してきまし
た。
 
 しょうゆ、豆腐、みそが次々に国際化を歩んでいる中で、納
豆が世界に貢献する機会が訪れようとしています。
 
 

 
『[追跡・納豆](2)健康食のエース、酵素・ナットウキナーゼ』
1991/05/06 日本農業新聞
 
 「納豆は優れた健康食ですよ、たくさん食べてください」。
最近の業者の売り込みに自信がうかがえます。「成人病対策に
はうってつけの食品だと評価されたからですよ」と納豆情勢に
詳しい茨城県工業技術センター部長の市川重和さん。
 
 納豆は″健康食品のエース″と改めてアピールするきっかけ
となったのが三年前の岡山県立短大・須見洋行助教授の研究成
果でした。あの納豆のネバネバの中から、近年増加している成
人病の脳卒中や心筋こうそくの原因となる血栓を溶かす強力な
酵素を発見したのです。
 
 昨春、秋田で開かれた納豆シンポジュウムでも須見助教授の
報告に話題が集中しました。「ナットウキナーゼ」と名付られ
たこの酵素は、納豆菌が大豆を分解して作り出す酵素です。
 
 須見助教授の報告によると、血栓を溶かす力は血栓症の治療
薬として使われているウロキナーゼ(人間の尿から採取)やT
PA(ヒト組織プラスミノーゲン活性因子)よりはるかに強力
で、しかも副作用もないといわれます。
 
 それに、ウロキナーゼの半減期はわずか二〜三分なのに対し
てナットウキナーゼは食後二〜六時間と長い。だから納豆を常
食すれば血栓型痴ほう症や、脳血栓、脳こうそく、心筋こうそ
くなどの予防になりそうというわけです。
 
 秋田の納豆シンポでは、参加した現地の人から「納豆をよく
食べる東北の人に中風(血栓症が原因)が少ないといわれてき
たが、科学的に裏付けられた思い」と喜ばせました
 
 「納豆をいつ食べるのがよいか」こんな質問も多く須見助教
授は「血栓症の発症例は夜中や明け方が多いので夕食にしたほ
うがよさそう」と答えています。
 
 納豆は栄養的にも優れていることは栄養学の研究者らが公言
するところ。良質のたんぱく質三五%、脂肪分二〇%を含む栄
養豊富な大豆も生のままでは組織が硬く、消化されにくいので
すが、納豆にすると納豆菌で作り出す酵素で食べものの消化を
良くします。
 
 栄養分で最も注目されるのは納豆のたんぱく質含量で、百グ
ラム中に十六・五グラムと肉に匹敵するほど。ビタミン類のB
2、B6、パントテン酸なども豊富で、さらにカルシウムや鉄
分を多く含むほか、身体を弱アルカリ性に保つ働きもあるとい
われます。
 
 まさに「日本の伝統文化がはぐくんだ世界に誇れる健康食
品」(全国納豆協同組合連合会)というわけです。
 
 

 
『[追跡・納豆]1、関西は5年で消費倍、メーカー強気多商品戦略』
1991/05/03 日本農業新聞
 
 「近ごろ納豆業界は景気がよくて士気も高まっていますよ」
と、全国納豆協同組合連合会事務長の清水種二郎さんは、最近
の″納豆ブーム″といえる現象にほくそ笑みます。
 
 地味だった伝統食・納豆が再び脚光を浴びているのです。理
由は健康食ブームの追い風。特にこれまでなじみの薄かった関
西方面で消費が伸びだしたのも注目されるところ。
 
 総務庁の平成二年の家計調査報告(速報)によると、全国一
世帯当たりの納豆消費金額は二千五百三十二円で、五年前の五
七%増。中でも関西の伸びが著しく、大阪市で千百九十四円と
全国平均には及びませんが五年前に比べて倍増近い金額の伸び
を示しています。 これは、単身赴任などの人口の移動や人的
交流が頻繁になったこともありますが、「何といっても優れた
健康食として再評価された」というのが業界筋では一致した見
方です。「食習慣のある東の人はうまいから食べる、西の人は
健康にいいから食べる」(清水さん)のが最近の傾向といいま
す。
 
 大豆は″畑の肉″と言われるほど貴重なたんぱく源として効
用も認められていましたが、今日の納豆ブームを一気に加速さ
せたのが三年前の「成人病予防によい」という学者のご託宣。
岡山県立短大・須見洋行助教授が脳こうそくなどの原因になる
血栓を溶かす「ナットウキナーゼ」を発見したのです。
 
 学会で発表されると反響は大きく、納豆メーカーの売り上げ
がその後急増しました。秋田の大手メーカー、ヤマダフーズ専
務の山田幸夫さんは「業界全体では昨年の二〇%の伸び」とほ
くほく顔。
 
 メーカーでは商品の種類を増やし、販売戦略を関西方面に移
し、スーパーは納豆店舗の拡大や試食コーナーの展開にも力を
入れ出しました。
 
 このブームを後押ししたのが、納豆に関心を持つ人たちの啓
もう活動。昨春は神奈川、秋田と相次いで納豆シンポジウムを
開き、医学、栄養学、食料の面から納豆食をアピールしまし
た。
 
 神奈川での納豆シンポを成功させた市民組織「湘南フォーラ
ム21」(柴田年彦代表)は、山形県朝日町に一ヘクタールの
土地を借りて納豆向けの高品質極小大豆を栽培し、納豆を通じ
て都会と山間地の交流プロジェクトに動き出しています。納豆
通の人たちは「伝統食・納豆を通じて日本の食生活の見直しに
なれば」と期待します。
 
 また、研究者らの中には世界の途上国の食料危機を救う″救
世主″にしようと、西アフリカに普及指導に駆け回るなどネバ
ネバの糸の輪が広がっています。
 
 

 
『納豆は地球を救うキャンペーン、学術会議やサミット』
1991/02/28 日本農業新聞
 
 日本食が世界で注目されているが、納豆大好き人間が集まっ
てこの春から納豆の世界キャンペーンを行う。題して「納豆は
地球を救う」。キャンペーンは(1)納豆学術会議(2)納豆
サミット(3)納豆大学(4)納豆コンサート――の四つの催
しを各地で行う。健康食納豆に対する意識を高め、海外にも広
く知らせていく。納豆啓もう活動は、国産大豆の消費拡大にも
道を開く。ネバネバの糸が世界を救う……!?
 
 キャンペーンを企画しているのは、クラブ・ナット事務局=
神奈川県藤沢市片瀬三―三―二五、アヴァン内、電話0466
(21)3355。このクラブは昨年四月、納豆シンポジウム
を開いて以来、おいしい納豆情報の提供、機関誌「ホール・ナ
ットー・ジャーナル」の発行、納豆パーティー、講演会で国産
納豆をPRしている。
 
 極めつけは、山形県西村山郡朝日町の山形朝日農協の協力
で、畑一ヘクタールの納豆用の小粒大豆作付けたこと。会員が
山形まで出掛けていき、植え付けと収穫を買って出るほどのこ
だわり派だ。同農協は大豆の生育状況を「ナットー・ダイヤ
ル」というテレホンサービスで会員に流し続けた。
 
 キャンペーンの柱・納豆学術会議は、納豆研究者招き、医
学、栄養学、食料の面から研究成果を発表し合うもの。納豆が
血栓を溶かすことを証明、脳卒中や心筋こうそくの予防効果を
発表した岡山県立短期大学の須見洋行助教授ら十人近い研究者
の発表を予定している。
 
 納豆のように大豆の発酵食品を食用にするのは、インドネシ
アのテンペ、ナイジェリアのダワダワなど日本だけではない。
納豆サミットは世界各国の人が、自国の納豆料理を実演し、そ
の国の納豆事情について交換する。また、納豆をこよなく愛す
る音楽家による納豆コンサートも計画している。
 
 以上は東京が中心だが、全国各地を巡回するのが納豆大学。
食文化史研究家の永山久夫さんら納豆大学教授陣が「納豆概
論」「納豆哲学」「納豆史学」「納豆道」を、まじめに講義し
て回ることになっている。
 
 事務局の柴田年彦さんは「納豆は、好きでも嫌いでもだれが
接してきて、食品の確かさもあり、こっけいさや面白さがあ
る。納豆が一つの出会いをつくれれば……」と期待する。
 
 国産納豆の宅配を手がける地球納豆倶楽部代表で、千葉県鴨
川市で農業を営む藤本敏夫さんも「穀類、豆、野菜にみそ汁と
魚などを組み合わせた日本人の基本的な食事が崩れてきてい
る。ナチスドイツ軍が携帯食品として注目した時代もあった。
途上国でも納豆は有望」と、″地球を救う″納豆に期待する。
 
 家計調査でも納豆の消費の伸びは、伝統食品の中では著し
い。二十年前に比べ一世帯当たりの納豆への支出は二倍。今ま
で消費の低かった近畿、九州、四国は年二〇%増。納豆の見直
しは食卓で進んでいる。
 
 

 
『一石二鳥狙うあぶくま納豆−宮城・角田市農協−原料は地元産大豆』
1991/01/14 日本農業新聞
 
 【宮城・角田】宮城県の角田市農協(小島文一組合長)はこ
のほど、納豆工場「あぶくま納豆センター」を完成させ、納豆
の生産を始めた。
 
 この工場は、床面積千二十六平方メートルで、省力化を図り
ながらの近代的な設備をしている。特に衛生面でも気配りがさ
れ、ほこりや雑菌を取り除くためのエアシャワーが入り口に取
り付けられているほか、トイレなどにも特別な配慮がなされて
いる。
 
 ここで作られる納豆の登録商標は「あぶくま納豆」。一日に
一万八千食分を生産する能力を備え、「安全・安心の日本で一
番すぐれた納豆をつくろう」が基本方針。「極小粒あぶくま納
豆」や「小粒あぶくま納豆」など六種類の納豆を生産する。
 
 減反が恒久化している中で、転作作物としての大豆生産の定
着化をより一層推し進めていくとともに、これにより生産され
る転作大豆(宮城小粒大豆)をただ売却するのではなく、納豆
にすることにより付加価値を付けて販売していくことがこの工
場の目的。
 
 このため、現在は角田産大豆だけでは不足するため、一部ほ
かの大豆が使用される。将来はすべての原料を減農薬有機栽培
で育てた地元産大豆で賄うことにしている。
 
 納豆生産の開始に当たり同農協は、あぶくま納豆の生産第一
号を組合員全戸に無料で配り、生産開始を祝った。
 
 ここで生産される納豆は、主にみやぎ生協を通し販売される
ほか、農協の生活センターなどで地域住民に供給されている。
 

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